数多くある離婚の手続きの中でも最も重要なのが『不動産の処分』です。
なぜなら金額が大きいため離婚後の生活に多大な影響を与えかねないからです。
高く売却できればできるほど、分配されるお金は多くなりますので、離婚後の生活の不安も少なくなります。
しかし、夫婦の不動産(土地・建物)の処理で悩む方は少なくありません。
特に、不動産を夫婦で共有(夫婦それぞれが不動産に対して一定の割合で所有権(持分)を有すること)している場合、処理の仕方で悩まれる夫婦が多いです。
そこで夫婦が不動産を共有している場合の『不動産を売却するまでの流れや注意点』について詳しく解説してまいります。
この記事が離婚する際の不動産の売却でお困りの方にお役に立てれば幸いです。
離婚時の共有持分の不動産を売却する流れ(全体図)
まずは共有持分の不動産を売却するまでの大まかな流れ(全体図)をつかみしょう。
①不動産の名義が単独所有か共有かを調べる
②誰が住宅ローン債務を負っているのか調べる
③不動産の評価額、査定額を調べる
④住宅ローン残高を調べ、オーバーローンかアンダーローンかを知る
⑤オーバーローンの場合
・住宅ローンを完済する
・任意売却する
⑥アンダーローンの場合
・売却で得たお金を財産分与する
①不動産の名義が単独所有か共有かを調べる
不動産の名義が夫(又は妻)の単独所有なのか、夫・妻の共有なのかを調べます。
不動産を買った方は、買った後に司法書士を通じて法務局に不動産登記をし、登記に関する「全部事項証明書」という書類を受け取っているはずです。
単独所有か共有かはその全部事項証明書を見れば分かります。
全部事項証明書の「権利部(甲区)」の「権利者その他の事項」欄に「共有者」と記載されてあれば、その不動産は共有であることを示しています。
そして、共有の場合には夫の「持分●分の●」、妻の「持分●分の●」とそれぞれの不動産に対する「持分」が記載されています。
持分とは不動産に対する支配率です。
持分が大きければ大きいほど、不動産を自由に使用、管理することが可能となります。
もっとも、不動産を売却(変更)するには、持分の大きさにかかわらず、夫婦双方が不動産を売却することに合意しなければなりません(他方で、単独所有の場合は単独所有者(夫又は妻)の意思のみで不動産を売却することが可能です)。
たとえば、夫の持分が10分の9で、妻の持分が10分の1であったとしても、不動産を売却するには双方の合意が必要です。
まずは、不動産を売却するか、売却しないで夫婦の片方が住み続けるのかよく話し合う必要があります。
なお、不動産を売却しない場合、下記でご紹介する契約内容によっては夫婦間で不公平感や不安な面が出てくることも予想されます。
たとえば、契約内容が下記のパターン1で、夫は自宅から出ていき、妻が自宅に住み続けるという場合です。
主債務者:夫、連帯保証人:妻
この場合、
夫からすれば「住んでもいない住宅の住宅ローンをなぜ支払う必要があるのか」という不満が出ることが予想されますし、
妻からすれば「離婚した夫が本当に住宅ローンをきちんと払ってくれるのか」と不安になることと思います。
また、不動産は依然として共有のままですから、仮に夫婦の片方が死亡した場合は、その子などが夫婦の持分を相続することとなり、のちのちややこしいことにもなりかねません。
不動産を売却する場合でも検討しなければならないことはさまざまありますが、不動産を売却しない場合でも、こうした懸念材料についてどう解決していくかについて、夫婦でよく話し合う必要があります。
②誰が住宅ローン債務を負っているのか調べる
離婚時に住宅ローン債務が残りそうな場合は、誰が住宅ローンを返済する義務を負っているのか調べます。
一般的には以下のパターンが多いかと思われます。
- パターン1 主債務者:夫、連帯保証人:妻
- パターン2 連帯債務者:夫、連帯債務者:妻
- パターン3 主債務者:夫、負担なし:妻
いずれのパターンであるかは、先述の全部事項証明書の「権利部(乙区)」の「権利者その他の事項」の欄か、不動産を買った際に交わした「売買契約書」で確認することができます。
離婚後に住宅ローンが残った場合、基本的には誰が主債務者、連載債務者、連帯保証人かで、住宅ローンを支払う人が決まります。
③不動産の評価額、査定額を調べる
不動産の価値を調べます。
調べ方は、『自分で調べる』、『不動産会社に査定を依頼する』、『不動産鑑定士に鑑定を依頼する』方法があります。
自分で調べる方法としては、毎年4 月から5月頃にかけて、お住いの市区町村から送られてくる固定資産税の「納税通知書」にある「課税明細書」の「評価額」の欄で確認する方法です。
次に不動産会社の査定ですが、メリット・デメリットを簡単にまとめるみると・・・。
メリットは原則、無料で査定を行ってくれる、短期間で査定を行ってくれるという点です。
デメリットは、不動産会社の査定には公的証明力がなく、内容の信ぴょう性について、ご自身で判断しなければならないという点です。
最後に、不動産鑑定士の鑑定のメリットは公的証明力があり、内容の信ぴょう性が保障されるという点です。
デメリットは、鑑定に費用(1回の鑑定につき20万円~40万円程度)や時間を要するという点です。
いずれの方法を取るかは夫婦間でよく話し合って決める必要があります。
④住宅ローン残高を調べ、ローバーローンかアンダーローンかを知る
不動産の査定額を出すと同時に、離婚時に住宅ローンがいくら残っているか、つまり、住宅ローン残高を調べます。
住宅ローン残高は、金融機関から住宅ローンを組む際に配布される「償還予定表」で確認することができます。
償還予定表をなくしてしまった方は、一度、住宅ローンを組んでいる金融機関に問い合わせてみましょう。
そして、③で出た結果と照らし合わせ、
☑ 住宅ローン残高が不動産の価値を上回っている状態(いわゆる「オーバーローン」の状態)
☑ 住宅ローン残高が不動産の価値を下回っている状態(いわゆる「アンダーローン」の状態)
のいずれであるかを確認しましょう。
以下で見るように、オーバーローンの場合とアンダーローンの場合とで売却の流れが異なるからです。
⑤オーバーローンの場合
オーバーローンの場合は、以下の方法、流れで不動産を売却します。
住宅ローンを完済する
不動産には住宅ローン返済を怠った場合に不動産を競売にかけることができるための「抵当権」という権利が設定されています。
抵当権はお金の貸主である金融機関又は保証会社(以下、金融機関等といいます)が設定しています。
金融機関等は、債務者(住宅ローンの借主)が住宅ローンを完済しない間は、債務者からお金を回収できなくなるリスクを負います。
したがって、金融機関等は、債務者が住宅ローンを完済しない限り、この抵当権を外しません。
また、そもそも抵当権が設定されたままの不動産を買う人などほとんどいないでしょう。
つまり、オーバーローンの場合に不動産を売却するには、住宅ローン残高から不動産の価値を差し引いてもなお残る住宅ローンを完済することが条件となるのです。
では、ここでこの住宅ローンを完済する義務があるのは夫婦のどちらかといえば、それは②で確認した契約の内容によります。
つまり、パターン3の場合(夫のみが主債務者の場合)は夫に住宅ローンを完済する義務があります。
他方、パターン1の場合は、まずは夫が、次に夫が住宅ローンを完済できなかった場合は妻が、パターン2の場合は夫と同様に妻も住宅ローンを完済する義務を負います。
パターン1(主債務者:夫、連帯保証人:妻)→夫が無理なら妻が支払い義務者
パターン2(連帯債務者:夫、連帯債務者:妻)→夫と妻の両人が支払い義務者
パターン3(主債務者:夫、負担なし:妻)→夫が住宅ローンの支払い義務者
なお、住宅ローンのようなマイナスの財産は財産分与の対象とはなりません。
したがって、たとえば、住宅ローンの残高が2000万円で不動産の価値が1500万円だった場合、残りの住宅ローン500万円を夫婦で2分の1ずつ(夫が250万円、妻が250万円)払う、ということにはならないことに注意が必要です。
任意売却する
上記のとおり、不動産を売却するには住宅ローンを完済しなければならないのですが・・・
といっても「養育費やその他の支払いを考えるとそこまでの余裕がない」という方も多いでしょう。
また、頭から不動産を売却したいと考えている夫婦にとっては、
「住宅ローンを完済するまで待てない。」
「どうせ売るなら、なるべく負担を減らしたい。」
とお考えになる方も多いのではないでしょうか?
こうした場合は「任意売却」を検討しましょう。
任意売却は、オーバーローンの場合でも、裁判所が関与せずに、弁護士や司法書士、任意売却専用の専門業者のサポートを受けつつ自らの意思で第三者に不動産を売却できる方法です。
なお、任意売却に対して、裁判所の関与の下、強制的(一方的)に不動産を売却されてしまうことを「競売」といいます。
住宅ローンの返済が滞ると、金融機関等は不動産に設定している抵当権を実行し、不動産を競売にかけ、競売で得た代金を住宅ローンの回収に充てるのです。
任意売却するには、金融機関等が不動産に設定している抵当権を外してもらう(抹消してもらう)ため、金融機関等と交渉し、任意売却することへの合意を取り付ける必要があります。
また金融機関等の交渉では、残った住宅ローンをいくら、どのような方法で支払っていくかなども取り決める必要があります。
さらに金融機関等が合意してくれるよう、できる限り不動産を高値で買い取ってくれる買手も見つけなければなりません。
こうした交渉や買手を見つけることなどは任意売却に慣れていない一般の方では難しいです。
したがって、任意売却は弁護士などの法律専門家、あるいは任意売却専用の専門業者に依頼するのが一般的です。
任意売却するためには依頼費用や抵当権を抹消するための費用などの諸費用がかかりますが、諸費用を売却代金から賄うことができる場合も多いです。
一度、依頼先に確認してみましょう。
なお繰り返しになりますが、任意売却しても住宅ローンを支払い続けなければならないことに変わりはありません(他方で、債務整理した場合は住宅ローンの支払いを免除する、あるいは負担を軽くすることができる可能性があります)。
支払い義務を負うのは、基本的には②で確認した契約の内容によります。
パターン1の場合は、基本的には夫が、夫が返済を怠った場合は妻が、パターン2の場合は夫、妻の双方が、パターン3の場合は夫が支払う義務を負います。
離婚したからといって、夫の支払い義務が免除されないことはもちろん、妻も連帯保証人や連帯債務者としての義務を免除されるわけではありません。
⑥アンダーローンの場合
アンダーローンの場合に不動産を売却する方法は、オーバーローンと異なり極めてシンプルです。
つまり、不動産を売却して余ったお金を、財産分与において夫婦で折半するだけです。
なお、不動産を含め婚姻中に取得した財産は、名義が夫(又は妻)の単独か共有かにかかわらず、原則として夫婦が共に築き上げた財産(共有財産)とされ、財産分与の対象となります。
したがって、不動産を売却して得たお金も共有財産で、財産分与の対象となり、分与の割合は特段の事情がない限り2分の1です。
まとめ
不動産が夫と妻の「共有」の場合、不動産を売却するには、双方が不動産を売却することについて合意しなければなりません。
合意した場合は、オーバーローンかアンダーローンかで不動産を売却する方法、流れが異なります。
離婚をきっかけとして不動産を売却しようと決めたら、まずはオーバーローンかアンダーローンなのかを確認する必要があります。
また夫婦間での協議がうまく進まない場合は、弁護士などの専門家に相談しながら売却をすすめることで将来の揉め事を減らすことにつながります。
さらに不平等な分与になるリスクも軽減できますので、弁護士と協業しているような不動産会社に依頼することをおすすめします。